生繰り糸(マスクに使用

普通お蚕さんが繭を作った後、保存のために繭を高温で乾燥させ、その後生糸にしますが、生繰りでは乾繭をせずに糸にします。高熱をかけないため生糸の段階ですでに普通の生糸とは違う柔らかさと嵩高さをもっています。この愛媛県野村町の糸は「あけぼの」という蚕品種です。風合いの良い素晴らしい糸ですが(たぶん世界で一番)扱いが難しく高価です。(たぶん価格も世界一)精錬も普通の生糸よりも難しく、すぐ練りすぎになってしまいます。熟練の職人さんに精錬を半練りで依頼しても過精練になってしまいました。以前に仕入れた糸を少しずつ使っています。時間による変質もほとんどありません。

 

もっとも、短所もあります。ひとつは繊度のムラでこの糸をひとつのシャトルでずっと織り続けると、織物の幅が広くなったり狭くなったりします。もともと生糸はポリエステル糸のように均一ではありませんし、年によって繭の出来も違うのが当然ですが、多条の製糸器で作ったこの糸は太さが機械製糸よりも大きくゆらぎます。もうひとつは独特の小さな輪節で、生糸の羽糸(できた糸そのまま一本)で織るとタテ傷の欠点がでやすいことです。

 

長短いろいろありますが、一番驚いたのは、生糸の状態で織り上げて後、洗濯するとアルカリにしなくても生地が柔らかくなることです。この風合いはほかの糸ではだせません。